Case Study

13年続く「CO2ゼロ」の仕組み ── セレッソ大阪、ヤンマー、大阪ガスが生んだ地域循環型オフセットモデルの全貌

2012年、セレッソ大阪はホームゲーム全試合のCO2排出を実質ゼロにする「CO2ゼロチャレンジ」を開始した。1試合あたり25〜30トン、年間約400〜500トンのCO2を、地元中小企業の省エネ設備導入で創出されたクレジットで相殺する。ヤンマーと大阪ガスが協業し、国内クレジット制度を活用したこの取り組みは、2014年に経済産業大臣賞を受賞。Jリーグ・WEリーグで唯一、13年間継続されている先駆的モデルだ。

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13年続く「CO2ゼロ」の仕組み ── セレッソ大阪、ヤンマー、大阪ガスが生んだ地域循環型オフセットモデルの全貌

2012年、セレッソ大阪はJリーグ史上初となる挑戦を開始した。ホームゲーム全試合で排出されるCO2、年間約400〜500トンを実質ゼロにする「CO2ゼロチャレンジ」だ。1試合あたり25〜30トン──直径50cmの桜の木約3万本が1日で吸収する量に相当するCO2を、どう相殺するのか。鍵を握ったのは、ヤンマーと大阪ガスという地元企業との協業、そして大阪市内の中小企業の省エネ設備導入で生まれる「国内クレジット」だった。13年間継続され、2014年には経済産業大臣賞を受賞したこの取り組みは、スポーツイベントと地域経済を結ぶ循環型モデルとして、今も進化を続けている。


Jリーグ初の快挙が生まれた2012年 ── 年間500トンのCO2をどう相殺するのか

2012年3月5日、セレッソ大阪は大阪ガス本社で記者会見を開き、Jリーグのクラブとして初めて、ホームゲーム全試合で排出されるCO2を実質ゼロ化する「CO2ゼロチャレンジ」の開始を発表した[1]。この取り組みは、Jリーグが「地域との共生」「地域貢献」を掲げて20周年を迎える節目の年に、大阪という地域への具体的な貢献として位置づけられた[3]。会見には岡野雅夫社長に加え、当時日本代表としても活躍していた清武弘嗣選手と播戸竜二選手が参加し、「地元大阪に貢献したい」「未来につながる取り組みに選手として誇りを持っている」と決意を語った[3]。この宣言は、スポーツクラブが環境課題に本格的にコミットする先駆的な事例として、国内外から注目を集めることになる。

セレッソ大阪が本拠地とする長居スタジアムとキンチョウスタジアムでは、1試合あたり約25〜30トンのCO2が排出される[3][7]。この排出源は、スタジアムの照明設備、売店での調理に使われるガスや電力、そして観客が自宅からスタジアムまで移動する際に利用する交通手段によるガソリン消費など、多岐にわたる[3]。年間を通じたホームゲーム全試合では、合計で約400〜500トンのCO2が発生すると算定された[1][7]。これは直径50センチの桜の木(オオシマザクラ)3万852本が1日に吸収するCO2の量に相当し、年間吸収量に換算すると84.5本分という膨大な規模だ[3]。スポーツイベントが持つ環境負荷の大きさを、こうした具体的な数値で可視化したことが、この取り組みの出発点となった。

この年間500トン規模のCO2をどう相殺するのか。セレッソ大阪は、パートナーカンパニーである大阪ガスとヤンマーの協力を得て、「国内クレジット制度」を活用したオフセットの仕組みを構築した[1][7]。国内クレジット制度とは、大企業が中小企業によるCO2削減設備の導入を支援し、その削減量を排出枠(クレジット)として国が認証する制度である[3]。大阪ガスとヤンマーは、大阪市内の中小企業に対してガスエンジンヒートポンプエアコン(GHP)などの高効率ガス冷暖房機器の導入を推進し、それによって生まれたCO2削減量をクレジットとして取得する[3][7]。このクレジットを用いて、セレッソ大阪のホームゲームで発生するCO2を相殺することで、試合の「CO2排出量実質ゼロ」を実現するという設計だ[3]。

この仕組みの画期的な点は、単なるカーボンオフセットにとどまらず、地域経済と環境対策を循環させるモデルを構築した点にある。実はセレッソ大阪とヤンマーは、2011年7月31日の鹿島アントラーズ戦で「カーボンオフセットマッチ」を試験的に実施しており、その際は九州の中小企業から取得したクレジットで約30トンのCO2をオフセットしていた[3]。しかし2012年からの本格展開では、オフセットの対象を大阪市内の中小企業に絞り込んだ[7]。これにより、クラブのホームゲーム開催が地元企業の省エネ設備投資を促進し、その成果が再びクラブの環境目標達成を支えるという、地域完結型の循環が生まれた[3][7]。Jリーグのチームが地元企業と連携し、試合から排出されるCO2を地域内の削減対策でオフセットする取り組みは、日本で初めてのケースとして記録されている[7]。

地域を巻き込む協業モデル ── 中小企業の省エネがクレジットを生む循環

セレッソ大阪のホームゲームにおけるCO2オフセットは、単なる排出権購入ではなく、大阪という地域に根ざした企業と中小事業者を巻き込む循環型モデルとして設計された。その核心にあるのが、大阪ガスとヤンマーによる「高効率ガス冷暖房機器の導入支援」と「国内クレジット制度の活用」という二段構えの仕組みだ[3][7]。大阪ガスとヤンマーは、大阪市内の中小企業に対してガスヒートポンプエアコン(GHP)などの高効率ガス冷暖房機器の導入を推進。このGHPは、室外機内のコンプレッサーの駆動をガスエンジンで行うヒートポンプ運転によって冷暖房を行うシステムで、従来機器と比較してCO2排出量を27%削減できる[3]。電力消費もほとんど必要としないため、節電対策としても有効であり、中小企業にとっては省エネと経済合理性を両立できる選択肢となった。

この取り組みの経済的な骨格を支えるのが、国内クレジット制度の活用である。国内クレジット制度とは、中小企業が大手企業の協力を得てCO2を削減した際に、その削減量を国が認証し、クレジットとして売却できる仕組みだ[3]。大阪ガスは、GHP導入によって中小企業が削減したCO2排出量に見合ったクレジットを買い取ることで、中小企業のCO2削減設備導入を経済的に支援する[7]。買い取ったクレジットは、セレッソ大阪のホームゲームで発生するCO2をオフセット(相殺)するために用いられる。この構造により、スタジアムでの環境負荷低減が、地元企業の省エネ投資を促進するインセンティブとなる循環が生まれた。

この仕組みは、2011年7月31日の鹿島アントラーズ戦で先行実施された「カーボンオフセットマッチ」で実証された。長居スタジアムで開催されたこの試合では、試合当日に排出されるCO2総量を約25〜30トンと想定し、ヤンマー製GHPを導入している九州の中小企業から取得したクレジットを用いてオフセットを実現した[2][3]。一般家庭が一日に排出するCO2の約2,000倍に相当する量を、企業間の連携と国の認証制度を組み合わせることで相殺したこの試みは、翌2012年の全試合展開への確信を与えた[2]。ヤンマーにとってこの「カーボンオフセットマッチ」は、自社製品の環境性能を可視化し、地域貢献とブランド価値向上を同時に達成する戦略的な取り組みでもあった。

セレッソ大阪の本拠地である大阪市に本社を置く大阪ガスとヤンマーが、この取り組みに賛同した背景には、地域との共生というJリーグの理念への共鳴があった[3][7]。セレッソ大阪の岡野雅夫社長(当時)は、「Jリーグが『地域との共生』『地域貢献』を掲げて取り組んできて、今年で20周年。わたしどもセレッソも、大阪市への貢献の一環として環境破壊につながる恐れのあるCO2排出量の削減に取り組むことにした」と述べている[3]。地元の中小企業のCO2削減対策を促進することで、スポーツイベントの環境負荷をオフセットする取り組みは、Jリーグのチームとしては日本初の試みだった[7]。この「地域循環型」モデルは、スポーツクラブが地域経済と環境政策の結節点となる可能性を示した。

大阪ガスとヤンマーの協業は、単なる環境貢献を超えた戦略的パートナーシップとしての性格を持つ。大阪ガスは、自社の顧客基盤とエネルギー供給インフラを活用して中小企業へのGHP導入を促進し、クレジットの買い取り主体として資金を提供する。ヤンマーは、自社製品の技術優位性を活かしてCO2削減を実現し、その成果をクレジット化することで製品価値を市場化する。セレッソ大阪は、この仕組みを通じて年間約400〜500トンのCO2をオフセットし、ファンやサポーターに対して環境配慮の姿勢を可視化する[7]。三者それぞれが経済的・社会的リターンを得る構造を作り上げたことが、この取り組みが13年にわたって継続している理由である。

経済産業大臣賞受賞と継続的進化 ── 13年間の実績が示す持続可能性

2014年3月、この取り組みは大きな転機を迎える。カーボン・オフセット推進ネットワーク(CO-Net)が主催する「第3回カーボン・オフセット大賞」で、「CO2ゼロチャレンジ」が経済産業大臣賞を受賞したのだ[4]。環境省、経済産業省、農林水産省の後援を受けたこの表彰制度は、低炭素社会の実現に向けたカーボン・オフセットの取り組みを評価し、優れた団体を表彰するもので、地球温暖化対策から波及する複合的な社会貢献を奨励することを目的としている[4]。東京国際フォーラムで開催された「カーボン・マーケットEXPO 2014」での表彰式は、スポーツビジネスと環境対策の融合が、単なる企業PR施策ではなく、国家レベルで評価される社会価値を持つことを証明する瞬間だった。関西企業の省エネ対策と地元スポーツチームのカーボン・オフセット活動が評価されたこの受賞は、地域循環型モデルが持つ波及効果と継続性を公的に認められた意味を持つ。

注目すべきは、この受賞が「セレッソ大阪単体」ではなく「関西プロスポーツチーム全体の取り組み」として評価された点だ。実は2013年度から、阪神タイガースも同様のスキームに参加し、「ウル虎の夏」開催期間中に阪神甲子園球場で行われた全9試合でカーボン・オフセットを実施していた[4]。この活動では、甲子園球場の所在地である兵庫県の企業から取得したクレジットを活用し、地域に根差したオフセット構造を構築している[4]。大阪ガスを共通項として、サッカーと野球という異なる競技、異なる地域特性を持つプロスポーツチームが連携することで、関西全体での環境意識醸成と地域企業の省エネ投資促進という、より大きな経済圏での循環が生まれた。この「横展開可能性」こそが、単発イベントではなく社会システムとしての持続性を持つ証拠であり、経済産業大臣賞受賞の核心的理由だった。

活動開始から11年目にあたる2023年6月、セレッソ大阪はロゴデザインを一新した[6]。新しいロゴは、スタジアムを俯瞰した姿と数字の「0」を重ね合わせることで、ホームゲームでのCO2実質ゼロ化を視覚的に表現している[6]。このリニューアルは単なるデザイン変更ではなく、10年以上継続してきた実績を背景に、ファンやスポンサー企業に対して「CO2ゼロ」という約束を改めて視覚的にコミットする意思表示だ。同時期から、スタジアムビジョンでの啓発CMも新たに制作され上映が開始されており[6]、試合来場者への認知拡大施策が強化された。長期継続する社会貢献活動において、コミュニケーション手法の更新と再訴求は不可欠であり、この「見える化」の進化が13年間の持続を支える基盤となっている。

2025年シーズンも、この取り組みは途切れることなく継続されている。ヨドコウ桜スタジアムでは再生可能エネルギー100%の電気を使用しており、関西電力の「EnneGreen提供証明書」の認定を受けている[6]。これは電力供給レベルでのCO2削減を意味し、オフセット前の排出量そのものを抑制する二段構えの環境戦略だ。さらに、サステナビリティパーク(メインスタンド側JR高架下あびこ筋側)に「CO2ゼロチャレンジブース」を常設し、キックオフ3時間前から来場者がQRコードでクイズに参加できる仕組みを導入した[5]。正解者にはオリジナルシール(全4種)がランダムで配布され、特定試合では選手寄せ書きサイン入りユニフォームが抽選で5名に当たる企画も展開されている[5]。こうした啓発活動の積み重ねが、ファン層への環境意識浸透と、スタジアム体験の一部としての定着を実現している。13年間で累計約6,500トンのCO2をオフセットしてきた実績は、単年度の成果ではなく、地域・企業・クラブが三位一体で築き上げた社会システムの証明だ。

2025年、サステナビリティパートナー就任で加速する新展開

2025年3月、ヤンマーホールディングスはセレッソ大阪が新設した「サステナビリティパートナー」に就任した[9]。これは既存のトップパートナー契約に加え、サステナビリティ領域での包括的な支援体制を構築するものだ。セレッソ大阪代表取締役社長の森島寛晃(当時)は「未来の子どもたちにもサッカーができる社会・環境を残すため、持続可能な社会の実現に向けて、ヤンマーホールディングス様、そしてセレッソファミリーの皆様とともにサステナブルな活動を推進してまいります」と述べている[9]。2012年から続くCO2ゼロチャレンジを基盤に、クラブは次のステージへと踏み出した。

このパートナーシップの背景には、セレッソ大阪が策定した「SAKURA SUSTAINABILITY」ポリシーがある[9]。このポリシーは「環境」「健康・福祉」「教育」「地域活性」「DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)」の5分野を重点課題として定め、事業を通じたサステナビリティ活動に注力することを宣言したものだ。クラブは「サステナビリティのフィールドでも世界に咲き誇れるクラブとなる」ことを目標に掲げ、CO2ゼロチャレンジで培った地域循環型のアプローチを、より広範な社会課題の解決へと展開しようとしている[9]。単一の環境プロジェクトから、包括的なサステナビリティ戦略への進化である。

一方、ヤンマー側も明確なビジョンを持ってこの協業に臨んでいる。同社は「A SUSTAINABLE FUTURE テクノロジーで新しい豊かさへ。」をブランドステートメントに掲げ、環境負荷フリー・GHGフリーの企業を目指している[9]。ヤンマーホールディングス取締役サステナビリティ推進部長(CSuO)の白藤万理子氏は、サステナビリティパートナー就任にあたり「これまでの『CO2ゼロチャレンジ』などの取り組みに加え、さらなるサステナブルなイベントや啓発活動を展開していきたい」と語っている[9]。1912年創業、1933年に世界初のディーゼルエンジン小型実用化に成功した産業機械メーカーが、スポーツを通じたサステナビリティ推進という新たな領域に本格的に乗り出した形だ[9]。

この協業の具体的な成果は、2026年2月から本格始動した「サステナビリティパーク Supported by YANMAR」に集約されている[8]。ヨドコウ桜スタジアムのバックスタンド側場外に設置されたこのエリアでは、複数のサステナビリティプロジェクトが統合的に展開される。CO2ゼロチャレンジの体験ブースに加え、キリンビバレッジ協力による「Bottle to Bottle」プロジェクト(使用済みペットボトルを新しいペットボトルに再生する水平リサイクル)、大阪市・堺市社会福祉協議会と連携したフードドライブ、子どもたちが自由に本に親しめる「絵本図書館」の設置準備、障がいのある方や高齢者も快適に着られるアダプティブウェア制作のためのユニフォーム回収、そして「選手SDGs宣言」の展示が行われている[8]。単一の環境対策ではなく、環境・福祉・教育・DE&Iが交差する「共創拠点」として設計されている点が特徴的だ。

サステナビリティパークは、来場者が「体験」を通じてサステナビリティを学ぶ設計になっている。CO2ゼロチャレンジブースではQRコードを読み取りクイズに正解すると抽選でオリジナルシールが当たる仕組みを用意し[8]、Bottle to Bottleプロジェクトでは水平リサイクルの仕組みを展示しながらペットボトル回収を呼びかける[8]。フードドライブでは賞味期限が2か月以上残存し、常温保存可能な未開封食品を募集し、地域の福祉協議会を通じて支援を必要とする方々へ届ける[8]。2026年2月のG大阪戦では「西田辺&鶴ケ丘まちバル」と連携したフードドライブイベントも実施され、地域の商店街とスタジアムが結びついた[8]。13年間のCO2オフセットで培った「地域を巻き込む力」が、環境を超えた多様な社会課題へと応用され始めている。

ヤンマーとセレッソ大阪の協業は、スポンサーシップの新しい形を示している。従来のロゴ露出やブランディングに加え、企業の技術・知見とクラブの地域ネットワークを掛け合わせ、具体的な社会課題解決のプロジェクトを共創する。サステナビリティパートナーという枠組みは、この「共創」を制度化したものだ。白藤氏が述べるように「地域社会への貢献を深めていく」ためには、単発のイベントではなく、継続的で包括的な支援体制が必要である[9]。セレッソ大阪が目指す「世界に咲き誇れるクラブ」への道は、CO2ゼロという具体的な実績を起点に、より広く、より深く地域社会と結びつく試みへと発展している。

What's Next ── 地域循環型モデルが示す、スポーツビジネスの未来像

セレッソ大阪が2012年にスタートした「CO2ゼロチャレンジ」は、2025年で13年目を迎えた[1]。この期間、Jリーグ・WEリーグを通じて全ホームゲームのCO2オフセットを完遂した唯一の事例であり、単年のイベントとして終わらず、ビジネスモデルとして定着した稀有なケースだ。年間約400〜500トンのCO2排出を相殺し続けてきた実績は、スポーツイベントのカーボンニュートラルが「できる・できない」の議論ではなく、「どう継続するか」のフェーズに入ったことを示している[7]。2025年3月、ヤンマーホールディングスが新設のサステナビリティパートナーに就任したことで、この取り組みはさらなる進化を遂げようとしている[9]。問われるのは、このモデルが他クラブ、他地域、そしてスポーツ産業全体にどう波及していくかだ。

地域循環型オフセットモデルの最大の価値は、スポンサーシップの枠を超えて地域経済に直接的な便益をもたらす点にある。大阪ガスとヤンマーが関西の中小企業に高効率ガス空調を導入し、その省エネ効果を国内クレジット制度でスタジアムのCO2排出相殺に充てる仕組みは、企業の省エネ投資促進とスポーツイベントのカーボンニュートラルを同時実現する[7]。このモデルは、クラブ・エネルギー企業・地域企業の三者がそれぞれ経済的・社会的リターンを得る構造であり、他クラブや他地域への展開可能性を持つ。たとえば、再生可能エネルギー導入が進む地方自治体と地域クラブが連携し、地元の太陽光発電や風力発電で創出されたクレジットをスタジアム運営に充てる応用例が考えられる。重要なのは、スポンサーシップを「ロゴ露出の対価」ではなく「地域サステナビリティ投資」として位置付け直す視点だ。

しかし、このモデルの持続性には構造的な課題も存在する。国内クレジット制度(現在のJ-クレジット制度)は、カーボンプライシングの進展や企業のGHG排出削減目標の厳格化により、クレジット需要が急増している。環境省の試算では、2030年に向けて日本国内のカーボンクレジット需要は年間数千万トン規模に達する可能性があり、スポーツイベントのオフセットに充てられるクレジットの調達コストは上昇する見込みだ。セレッソ大阪が年間500トン規模のオフセットを今後も同じコスト水準で継続できるかは、クレジット市場の動向次第となる。加えて、オフセットは「削減」ではなく「相殺」であるため、スタジアム運営やファンの移動そのものから排出されるCO2を減らすアプローチとは本質的に異なる。スポーツ界全体でScope3(観客移動、サプライチェーン排出等)の可視化と削減が求められる中、セレッソモデルは「オフセット」から「削減」へのロードマップ構築の必要性も浮き彫りにしている。

今後注視すべきは、セレッソ大阪がサステナビリティパートナー制度を通じてどのような「削減」施策に踏み込むかだ。ヤンマーホールディングスのサステナビリティ推進部長・白藤万理子氏は「サッカーを通じたサステナビリティ活動をさらに加速させ、地域社会への貢献を深めていく」と表明しており[9]、照明のLED化、再生可能エネルギー調達、公共交通利用促進策など、排出削減そのものに踏み込む可能性がある。2014年に経済産業大臣賞を受賞した際の評価ポイントは「地元企業の省エネ促進とスポーツのオフセットを統合した点」にあったが[4]、次の10年で評価されるべきは「オフセットに依存せず、排出削減とファンエンゲージメントを両立させた点」になるだろう。他クラブがこのモデルを参考にする際も、オフセット購入だけで終わらせず、地域の再エネ導入や公共交通網の整備といった「削減インフラ」への投資を組み込むかどうかが、真の持続可能性を左右する。

読者が問うべきは「自社・自地域で同様の循環モデルを構築できるか」だ。スポーツクラブの経営者は、スポンサーシップをサステナビリティ投資として再定義し、地域企業・自治体との三者連携モデルを設計する視点が求められる。企業のESG担当者は、スポンサーシップ予算を「広告費」ではなく「Scope3削減・地域貢献投資」として位置付け直すことで、経営陣への説明ロジックが変わる。自治体の環境・スポーツ部局は、地域クラブのスタジアム運営を「地域カーボンニュートラルのショーケース」として活用し、再エネ導入促進や公共交通利用啓発のハブにできる。セレッソ大阪のモデルが示したのは、スポーツビジネスがサステナビリティの「受益者」ではなく「推進者」になれるという可能性だ。13年間の実績が証明したのは、ビジネスとして成立し、地域に便益をもたらし、ファンに誇りを与える循環が、設計次第で実現できるということである。


参考文献 / Sources

https://www.cerezo.jp/news/2012-03-05-2/

https://www.yanmar.com/jp/news/2011/07/06/824.html

https://www.j-cast.com/2012/03/06124437.html?p=all

https://www.cerezo.jp/news/2014-03-05-2/

https://www.cerezo.jp/news/2025-0220-1300/

https://www.cerezo.jp/news/2023-0610-1000/

https://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=26794

https://www.cerezo.jp/news/2026-0206-1030/

https://www.cerezo.jp/news/2025-0331-1200/

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